2003年2月23日()のキノコ

ナガエノホコリタケ(Tulostoma fimbriatum var.campestre)
上から見たところ   採ったところ   胞子
 以前から行きたいと思っていた伊良湖岬の海岸にやっと行くことが出来た。

 ここから伊良湖岬までは陸路を走ると大変な遠回りとなるので、鳥羽からフェリーを使う事になる。フェリー代は、車を使うと往復で1万円ちょっとかかるが、人間だけだと2千円ぽっきり。伊良湖岬の海岸には自転車専用道路が整備されていてレンタサイクルもあるようなので、迷わず2千円の方を選んでしまった・・。

 レンタサイクルは、いわゆるママチャリタイプであった。(^_^;
 先ずは小手調べに直ぐ近くの「恋路が浜」のあたりの海岸を歩いてみたが、それらしきものは何も見当たらなかった。
 次に本命のフラワーパークのある海岸に向かう。途中、ちょっとした峠を越えていかなければならないのだが、これがママチャリにはけっこう手強く、何度も押して歩くはめになった。だが、ママチャリにも良い点はある。砂浜を押して歩くこともできるため、同じところを戻ってこなくても良いという点である。
 そうやってじわじわと砂浜を進んでいくと、遂に目的のキノコを見つけることができた!

 ケシボウズタケの仲間は、柔らかい砂の斜面に頭だけを出しているものが多かった。
紀宝町の海岸のものに比べるとかなり大型で、大きいものは10円玉程の大きさがあった。発生環境もかなり違うようである。
 一見したところ紀宝町のものとは違うように思えたが、では、どこがどのように違うかと考えると、大きさくらいしか違わないのではないかとも思えてくる。

 普段乗りなれない自転車を長時間漕いだため、足がとても疲れてしまった。
 明日、いや明後日あたり、まともに歩けないかも知れないな・・。

 顕微鏡を覗いてみると、胞子の表面には小さな疣状突起と、それが繋がってマスクメロンの模様のようになった網目状の突起があるように見える。胞子のサイズは7.3-8.3×6.7-7.5μm程度とやや大きめのようだ。
 弾糸は厚膜で、丸みを帯びた先端が2個くっついたようになった接合部が多く見られる。
 胞子の表面の突起については、「原色日本新菌類図鑑」等を見る限り微疣状突起としか記載されていない。検鏡図を見ても一様に小さなイボイボが描かれているだけである。これは、Jorge E .Wright 著 「The Genus tulostoma」の検鏡図でも殆んど同じであるが、この本に掲載されている胞子の電子顕微鏡写真を見て納得がいった。電子顕微鏡写真では胞子表面の疣状突起が網目のように繋がっている微細なな構造が良くわかり、これを少しぼやかすと光学顕微鏡で見える姿と同じようになることが理解できるのである。
 それにしても腑に落ちないのは、胞子の検鏡図になぜこのような網目模様が描かれていないのかということ。光学顕微鏡でもこれほど顕著に網目が見えているのにである。私の顕微鏡の性能が特別良いということでは絶対にない。そもそも、光学顕微鏡の基本的な性能なんていうものは恐らく30年以上前の顕微鏡と比較してもそれほど進歩しているものではないはずである。何の先入観も無く正確にスケッチをすれば電子顕微鏡写真とよく似たものが出来上がるはずだと思えるのだが・・。

 紀宝町の海岸のケシボウズを再検討するため、2001年2月26日に採取した標本を検鏡してみた。
 この標本は、その年の6月23日に「藤原町きのこ調査」に来ていただいた吉見昭一先生に直接見ていただいたものであるが、その標本の入った青い古封筒を見て驚いた。
 封筒の裏には「トゥルストーマー ブルーマーレー」「4亜属 20種」などと下手くそな私の字で書かれていたのである。その当時、ケシボウズタケ属に関して殆んど知識のなかった私が吉見先生の言葉をそのまま書き写したものと思われる。(「20種」は「120種」の聞き間違いかも知れない。) 「ケシボウズタケ」と言われたのはなんとなく覚えていたが、学名なども教えてもらっていたことはすっかりと忘れていたのだ。
 検鏡の結果、胞子は、鋭角の大きな三角形の突起を持っているように見え、サイズは4.9-5.7×4.1-5.4μm程度。弾糸はナガエノホコリタケに比べると細くて弱々しく見え、ナガエノホコリタケに多く見られた丸みを帯びた先端が2個くっついたような接合部は殆んど見られなかった。
 これはやはりケシボウズタケ(Tulostoma brumale)そのものではあるまいか? 特に胞子の特徴は「The Genus tulostoma」の電子顕微鏡写真とも良く一致し、アラナミケシボウズタケ(Tulostoma fimbriatum)やナガエノホコリタケ(Tulostoma fimbriatum var.campestre)を否定するのに十分な特徴を持っているように思える。
 さらに2002年12月15日に採取した標本を見てみると、外観はかなり違うものの顕微鏡的な特徴は上記のものとほぼ同じであり、やはりこれもケシボウズタケとして良いように思われた。
 また、菌懇会の井口潔さんにより「アラナミケシボウズタケとナガエノホコリタケの中間のような形質を持っている」とされた2002年1月3日採取のケシボウズについては、標本が手元に残っていないため再検討は出来なかったが、12月15日のものと同じ場所に発生していたことと、残っていた胞子の写真の特徴が良く似ていることなどから、これもケシボウズタケの可能性が高いのではないかと思われる。
 吉見先生の同定はやはり間違っていなかったようだ。恐らく先生は色々な状態の何百という数のケシボウズを観察されていたに違いない。だから私が見ていただいた上記の古い標本も即座にケシボウズタケと断定されたのだろう。

 上記の2種とウロコケシボウズタケの顕微鏡写真などを並べて比較してみた。


                                           (2003/9/21追記)



発生環境  別の写真  掘り出したところ  弾糸の様子  胞子